不動産コラム COLUMN

2022.9.7

収益不動産は相続発生までのメンテナンスがポイントです

相続と不動産の問題

著者は弁護士と税理士を生業にしているので、お客様から遺産分割や相続税の申告についてご相談をいただきます。資産家の方は相続税への関心が高く、相続が起こる前から負担軽減に関するご相談が寄せられます。一方、遺産分割に関するご相談のほとんどは相続が起こった後です。多くの方は我が家に限って相続で揉めることなどないと思われているようです。しかし、実際には相続が争族になることや、遺産が原因で相続人が大変な思いをすることも珍しくありません。
今回は、遺産のアパートを相続した子どもが大変な目にあった実例をご紹介します。

「負」動産の相続

父親が亡くなり、相続人は子どものAさん(長女 専業主婦)とBさん(長男 サラリーマン)。遺産には自宅や金融資産のほか、時価推定1億円の賃貸アパートがありました。アパートは築20年を経過しており、共用部分のメンテナンスが十分行われていなかったため老朽化しており、1億円はほぼ土地の評価額でした。最近では空室も目立つようになりました。仲介業者からは家賃を下げないと部屋に客付けができないといわれ、空室が出るたびに家賃を下げて新たな入居者を募集する悪循環に陥っていました。それでも土地に価値があったので、最終的にはAさんとBさんがそれぞれ持分を2分の1として、アパートを共有相続しました。
Bさんは地方に単身で赴任中。アパートの掃除や修繕の手配はAさんが家事の合間に一人で行うことになりました。1年後に収支を確認すると、修繕費などのランニングコストが家賃収入とほぼ横並びで、儲けはほぼ0(ゼロ)。今後、修繕費などがさらに増加すると収支が赤字になることは明らかでした。アパートの管理を一人で負担しているAさんは、何もしないBさんに対する不満を次第に膨らませるようになりました。
このままではジリ貧だと考えたAさん。お金を支払ってでも入居者に退去してもらい、アパートを建て替えた上でその管理を不動産管理会社に任せることをBさんに提案しました。しかし、Bさんは新たな募集を行わず自然に入居者が減るのを待とうと主張。共有物であるアパートに変更を加えるにはBさんの同意が必要なため、Aさんの一存でアパートの建て替えはできません。
その後、新たな入居者の募集を行わなかったので家賃収入は減少する一方、修繕費などは年を追うごとに増加し続けました。結局、相続したお金の多くは修繕費などに消えてしまいました。ここに至ってBさんもアパートの建て替えに同意。入居者に退去してもらう相談のため私の事務所を訪れたのでした。

問題解決のポイント

AさんBさんは、まさしく「負」動産を相続することになってしまいました。では、どうすればよかったのでしょうか。

(1)アパートの処分・買換え
老朽化したアパートの収支が将来悪化することは父親の代で分かっていました。そうであれば、父親の代で思い切ってアパートを処分しておけば、子どもには負動産の代わりにお金を遺すことができました。また、売却した代金で新たな収益不動産を購入することでアパート経営の収支を改善することも選択肢だったと思います。
(2)遺言の作成
AさんとBさんはアパートを共有することになりましたが、共有権者の考え方が異なると将来的にはアパートの管理や処分について結論が出せなくなる可能性があります。そこで父親は、例えばアパートはAさんに遺して、他の財産を少し多めにBさんに遺すような遺言を作成しておくことも必要でした。
また、アパート購入時の債務が残っている場合、遺言を作成することでアパートと債務をワンセットで特定の相続人に遺すことができます。
(3)不動産管理会社の活用
アパートはAさん、Bさんが相続したときにはすでに老朽化が進んでおり、その後の修繕費の増加が収支を圧迫しました。お二人から事情をうかがうと、高齢の父親はアパートの管理を十分にできなかったため、老朽化を早めることになったようです。所有者が自分で十分な管理ができないのであれば、不動産管理会社を利用してメンテナンスを行い、アパートの価値を維持することも検討すべきでした。
また、不動産管理会社を利用すれば、会社勤めの子どもにもアパートを遺すこともできます。

まとめ

建物は年を経るとどうしても劣化してしまいます。自宅であれば住んでいる人が我慢すれば住み続けることができます。しかし収益不動産の場合、建物の劣化は即収支の悪化につながります。建物の価値を維持するためには適切なメンテナンスが不可欠です。所有者が自分でできない場合、不動産管理会社の活用を検討しましょう。また、収益の改善が見込めない不動産については、処分や買換えを検討することで家族に負動産を遺さずにすみます。
不動産の管理や処分には専門知識が必要です。関心のある方は、不動産会社などに相談することをお勧めします。
では、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

著者

小沢 一郎おざわ いちろう

著者

小沢 一郎おざわ いちろう

経歴
中央大学法学部 卒業
同志社大学司法研究科 修了
外資系企業勤務を経て、弁護士・税理士の資格取得
現在、弁護士法人オールワン法律会計事務所(京都市所在) 代表
活動
資産承継・事業(医業)承継に関する法務・税務
企業等の法律顧問、家事(相続・離婚)全般、債権回収 等
銀行、保険会社等での講演会講師