不動産コラム COLUMN

2022.5.25

相続登記の義務化

相続登記、住所氏名変更登記が義務化される背景

現行法では、相続登記は義務ではなく、罰則もありませんので、不動産の所有者が亡くなって相続が開始したとしても、不動産の価値があまりない場合などには、相続登記を行わない人も少なくありません。

相続登記を放置している間に次々と相続が開始して、現在の所有者が誰であるのかがわからなくなっているような不動産が増えてきています。

また、現行法では、住所氏名変更登記も義務ではありませんので、住所氏名に変更があっても登記せずに放置されていることにより、所有者に連絡できない場合があります。

このような所有者不明の不動産が増えると、所有者の探索に時間と費用を要することになって公共事業や災害対策の障害となったり、隣地が所有者不明土地であるため境界確定ができず売却の障害となったりするなど、不動産の円滑かつ適正な利用に支障が生じるようになります。

そこで、相続登記および住所氏名変更登記が義務化されることになりました。

相続登記、住所氏名変更登記義務化のポイント

1.相続登記の義務化
不動産の所有者が亡くなったことにより相続によって所有権を取得した相続人は、相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知ってから3年以内に、所有権の移転登記申請をしなければならなくなります。
2.相続人申告登記の創設
遺産分割協議が長期化しているような場合には、相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知ってから3年以内に、最終決定した相続割合での登記申請ができないことも考えられます。

そのような場合には、相続人申告登記を利用できるようになります。

相続人申告登記とは、法務局において、自分が相続人であることを申告することによって、相続登記の義務を履行したものとみなす制度です。

相続人申告登記をすることによって、申告をした人の氏名および住所などが登記簿に記載されます。

ただし、相続人申告登記を行っていても、その後に遺産分割協議が成立した場合、遺産分割の日から3年以内に、所有権の移転登記申請をしなければならないことに注意が必要です。
3.相続登記を申請しなかったらどうなるか
相続登記を義務化することに伴い、相続登記の申請義務違反には罰則が適用されることになります。 罰則の内容としては、相続登記申請義務のある人が正当な理由なく相続登記の申請期限内に申請を行わなかった場合には、10万円以下の過料に処せられる(罰金や科料と異なり、前科はつきません)というものです。

過料も問題ですが、そもそも相続登記を後回しにしますと、相続人の中にさらに亡くなる方が出てきて、相続関係が複雑化します。

そして、相続登記ができていないと、売却時に困ります。

いざ不動産を売却したくなったとしても、相続登記ができていないことによりすぐに売却できず、売り時を逃すということにもなりかねません。

司法書士にて必要な書類を集めることはできますが、連絡を取り合って、遺産をどのように分けるか協議をすることは、基本的に相続人間で行う必要があります。

できるだけお早めに相続登記手続きに着手されることを、おすすめいたします。
4.住所氏名変更登記の義務化
相続登記義務化の少し後に、住所氏名変更登記も義務化されます。

所有権の登記名義人が住所や氏名を変更した場合、その変更日から2年以内にその変更登記の申請をしなければならなくなります。

相続登記と同様、正当な理由がないのに申請しない場合、5万円以下の過料の罰則があります。

相続登記、住所氏名変更登記の義務化はいつからスタート?

相続登記義務化は、2024 (令和6)年4月1日からスタートします。

2024年4月1日以降に、相続の開始および所有権の取得を知った場合は、その時点から3年以内に、 相続登記を行う必要があります。

では、2024年4月1日より前に開始していた相続については、どうなるのでしようか。

法改正がある場合、改正前の法律関係は適用外とされるのが一般的ですが、今回の改正は、相続の開始が法律の施行前であっても、さかのぼって適用されます。

したがいまして、2024年4月1日より前に、すでに相続の開始および所有権の取得を知っていた場合は、スタートから3年以内である2027年4月1日までに、相続登記を行わなければならなくなります。
すでに相続が発生している方は、すぐに相続登記手続きに着手しましょう。

住所氏名変更登記義務化は、2026 (令和8)年4月ごろまでに、スタートする見込みです。

著者

西田 達哉にしだ たつや

著者

西田 達哉にしだ たつや

経歴
甲陽学院中学・高等学校 卒業
大阪大学法学部 卒業
司法書士、土地家屋調査士、行政書士
司法書士法人KANDA代表(神田総合司法書士事務所グループ)
成年後見センターリーガルサポート会員
活動
ディベロッパー、ハウスメーカー、不動産仲介会社、金融機関等の不動産登記業務、大手企業の会社分割など組織再編に関する商業登記業務を中心に行う。
相続、遺言、遺産整理、後見など中高年、高齢者向け法務サポートも得意とする