不動産コラム COLUMN

2023.7.24

不動産取引と⼟壌汚染とのカンケイ

平成15年の⼟壌汚染対策法施⾏よりはや20年がたち、今や不動産取引にあたっては⼟壌汚染の問題は避けて通れない課題となっています。
個⼈の⽅が代々居住してきた住宅の敷地を売り買いする場合には、⼟壌汚染が問題となるケースはあまりありませんが、ある程度まとまった⼤きさで、過去に⼯場や作業所などがあり化学薬品を使⽤していた、なんていう⼟地の場合には、⼟壌汚染があるかどうか、それを浄化するためにはどれくらいの費⽤がかかるのか、が取引価格を決めるための⼤きなポイントになることはおわかりいただけると思います。
今回より3度にわたり、⼟壌汚染とは何か、不動産取引をお考えの⽅(売りたい⽅、買いたい⽅、貸して収益を上げたい⽅)が⼟壌汚染という課題とどのように向き合っていくべきなのか、についてお伝えしていきたいと思います。

⼟壌汚染とは何か?

⼟壌汚染とは、薬品や排⽔の漏洩などの⼈為的原因や、⼟壌の成り⽴ちなどの⾃然的原因など様々な理由により有害物質が⼟壌中に蓄積され、その濃度が⼟壌汚染対策法や⼟壌汚染に関する条例で定められた基準値を超えている状態、を指します。

土壌汚染

不動産取引に際しては、何が問題なのか?

⼟壌汚染がある⼟地に⻑年住み続け、有害物質を含む⼟壌・⼟埃を⼝にし続けたり、有害物質が溶け込んだ地下⽔を飲み続けたりすることにより、健康被害が⽣じるおそれがあります(健康被害リスク)。
また汚染が地下⽔にまで拡散すると近隣の⼟地まで被害がおよぶと賠償責任の問題が⽣じるため事態が複雑化します(賠償リスク、レピュテーションリスクなど)。
資産価値の観点からみると、⼟壌汚染がある⼟地は価格に影響を及ぼすことになりますので、いざ売却しようとしても希望通りの価格で売ることができず、売りたいけども売れない⼟地(ブラウンフィールド)として放置され⼟地利⽤されなくなります(資産リスク)。
また実際の⼟地利⽤=開発にあたっては、⼟壌汚染がある⼟地では当初想定していなかったコストの負担があり、また⼯期延⻑によるスケジュール遅延といった事態も考えられます(開発リスク)。
このため、できるだけ⼟地をきれいな状態で売り買いしたいというニーズが⽣まれるわけです。

⼟壌汚染状況調査とは?

ところが、⼟壌汚染の特徴の⼀つに、⼟壌汚染は地表⾯下の問題であるため⽬に⾒えない、というものがあります。⼟が変⾊していたり異臭を放っていたりということがあれば汚染がすぐにわかるときもありますが、多くの場合、⼟壌を試料採取して分析してみなければ汚染があるかどうかわからないのです。
汚染があるかどうか、それを浄化するためにはどれくらいの費⽤がかかるのか(これを明らかにすることを汚染リスクの可視化、定量化、と⾔います)、その⼿法が《⼟壌汚染状況調査》ということになります。

地歴調査は⼟壌汚染状況調査の第1 段階

⼟壌汚染状況調査では、⼟壌試料を採取し分析することで、定められた基準を超える汚染があるかどうかを判定します。しかし、⼟壌汚染対策法では有害物質として鉛やカドミウム、トリクロロエチレンなど26項⽬が定められており(特定有害物質)、そのすべてを分析すればよいというものではありません。また試料を採取する場所をどこにするか、という問題もあります。やみくもに試料を採取し、特定有害物質の全項⽬を分析するということは、その⼟地の汚染状況を正確に把握する調査にならないばかりか、せっかくの調査費⽤をムダにしてしまうということになりかねません。
そこで、⼟壌汚染状況調査の第1段階として、⼟地の履歴、⼟地利⽤の履歴を把握することによって、特定有害物質を使⽤していたかどうか、その物質について⼟壌汚染のおそれがあるかどうかを評価する《地歴調査》を実施することが重要になります。
地歴調査は、⼟壌汚染対策法をはじめ都道府県や政令市などの⾃治体が独⾃に定めている条例や要綱といった法令ルールにおいて、⼯場の閉鎖や、⼀定⾯積以上の規模で⼟地を掘り返す計画があるときなどに実施を義務づけられているものです。
不動産取引の際に調査を義務付けている法令ルールは少ないですが、法令の適⽤を受けないケースでも、取引価格を決めるために⾃主的に⼟壌汚染状況調査を⾏うことがあります。地歴調査には、その際にどのような調査をすればよいのかを検討するための情報収集フェーズという側⾯があります。
地歴調査は、⼟地・建物の登記簿謄本を取得したり、過去地図・空中写真を収集したりすることで進めていくため、いわば「誰でもできる」調査です。しかしながら、⼟地の利⽤履歴によっては、⼟地利⽤者へのヒアリングや⾏政保有情報の聞き取りなど専⾨知識が必要になるケースがありますので、専⾨の調査機関に依頼するべきでしょう。
現在⽇本では、⼟壌汚染対策法に定める指定調査機関の登録をしている調査会社が683社(令和5年3⽉1⽇現在、環境省HPより)あります。地歴調査の費⽤は、⾯積・筆数や調査項⽬によって変わりますが、概ね数万〜数⼗万円というところ。⾶び込みで依頼することもできますが、有⼒な不動産アドバイザーに提携先の調査会社を紹介してもらうほうが、費⽤・スピードの⾯で優遇してもらえることがあるのでおススメです。

まとめ

今回は、⼟壌汚染とは何か?不動産取引に際して何が問題になるのか?ということや、不動産取引の中での⼟壌汚染状況調査の必要性、なかでも地歴調査の重要性について解説いたしました。
次回は、地歴調査の次段階の調査について。それから、調査はどこまで⾏っておくのがよいのか、という点について触れていきたいと思います。

著者

和泉谷 亮介いずみたに りょうすけ

著者

和泉谷 亮介いずみたに りょうすけ

経歴
同志社大学経済学部 卒業
土壌汚染調査技術管理者
損害保険会社、デベロッパー勤務を経て2008年にランドソリューション㈱へ入社
活動
工場閉鎖・売却に際して、また事業場内の土地改変を伴う設備計画における土壌汚染リスクのマネジメント・調査・対策工事に際しての住民説明会、セミナー講師など。