不動産コラム COLUMN

2024.11.18

事業承継での不動産のトラブル事例・その1

今回から3回に分けて、「事業承継での不動産トラブル事例」のテーマでお届けします。
『事業承継』は、全ての経営者にとって“最大の経営課題”であり、人には寿命がある限り、いつかは起こる最大イベントと言っても過言ではありません。
円滑な承継の実現のためには、事前の周到な計画的な準備、及び、事後のきめ細やかで段取りの良い対応が欠かせません。

3回にわたってお伝えしたいことは、事業承継において不動産の役割の重要性を意識して頂きたいことです。次回からは、私が実際扱った具体的なトラブル事例をご紹介します。
事業承継における不動産の重要性を再確認して頂ける機会としてご覧頂けましたら幸いです。

事業承継とは(事業承継の再確認)

まずは、事業承継について、その内容と意味の再確認をしましょう。

1.事業承継と事業継承

事業“承継”とは「事業を承って継ぐ」ことであり、承継には先代の人から地位や身分、仕事、精神などを受け継ぐ意味が強く、理念や思想など、抽象度の高いものを引き継ぐ意味が強いです。
一方で、事業“継承”とは、「事業を継いでから承る」ことであり、継承には先代が得た資格や経済的価値、遺産、権利など形のあるものを引き継ぐといった意味が強く、先に資産を受け継いでから、後で自分のなかで承認するという意味かと思います。

2.事業承継の3つの構成要素

事業承継で引き継ぐものには、ヒトの承継(人)・資産の承継(物や金)・経営資源(知的資産)の承継の3つの構成要素があります。

出展:中小企業基盤整備機構「中小企業経営者のための事業承継対策」より

  1. 人の承継(経営権)
    経営権の担い手によって会社経営に大きな影響を及ぼすことが大きく、後継者が誰なのか、覚悟があるのかということが非常に重要です。
  2. 資産の承継
    資産とは自社株と共に、事業に必要不可欠な不動産等も対象です。
  3. 知的資産の承継
    会社が持つ人材や情報、技術、データベースなど知的財産等が対象です。
3.事業承継の3つの類型

誰に事業承継するかによって、親族内承継、従業員承継、M&A(合併と買収)等承継の3つの類型があります。その他、事業を承継しない廃業があります。

出展:中小企業庁Hp「事業承継を知る・事業承継の種類」より

  1. 親族内承継
    経営者の子供等の親族への承継です。子供が幼い時から後継者候補として育ってきているので、先代の想いを受け継ぐことが自然に出ている場合や、かえって反発する場合があります。
  2. 従業員承継
    従業員への承継は、先代と考え方が近いことや、技術レベルが高い者を経営者が指名し、ビジョンの承継がされやすいことがあります。経営経験が無いことや、経営者保証の負担から、従業員や配偶者から拒絶される場合があります。
  3. M&A等承継(第3者承継)
    企業が企業を買収すること等であり、新しくどこかの企業に加わることもあります。買収後も社長が続投する可能性もあります。

事業承継における不動産の役割と怖さ

1.不動産の役割

事業承継における不動産の役割を確認してみたい。

  1. 事業活動の必要不可欠な場であること
    生産の場であり、売上に必要不可欠な資産です。
  2. PL/BSでの主要項目であり、経営に大きな影響があること
    有形固定資産の中でも金額が大きく、賃貸の場合でも大きな費用支出項目であり、活用次第で事業の成否を分けます。
  3. 時価と含み益により、税金対策が必要であること
    自社株と共に、資産の承継における税金負担が大きくなります。
2.不動産の怖さ

事業承継に限らないものの、不動産特有の怖さを確認してみたい。

  1. 資産規模を勝手に公示されていること
    法務局で不動産登記簿謄本は誰でも閲覧でき、その面積と共に、所有者の氏名や住所が公示されます。併せて、公示されている路線価からその面積で勝手に資産規模を試算できてしまいます。
  2. 不動産の売買は儲けが大きいこと
    昔から、“地面師”や“地上げ屋”と言われる人々がいます。不動産は単価が高いだけに、皆様がご所有の不動産に対して、見知らぬ方から不利な条件での売却などの勝手な提案がされる可能性もあります。
  3. 権利関係や境界など法規等の取扱いが難しいこと
    不動産の権利関係の確認や、境界の確認も複雑である。更に、関連法規は民法をはじめ建築基準法等と数多くあり、かつ、法規も時折改正もあります。所有者でも知らない点も多く、知識不足を指摘される可能性もあります。

事業承継と相続との違い

事業承継と相続は、ある意味で、表裏一体の関係にあります。しかし、事業承継と相続ではその捉え方が異なる点もあります。

1.引き継ぐ者

事業承継は、経営権集約のため単独の承継を目指します。相続は、遺留分の侵害回避や相続税負担軽減のため、相続人等へ分散されます。

2.承継対象とその役割

事業承継は、有形無形の経営資源の承継であり、事業継続における通過点です。相続は、物的資産の継承であり、財産分配における所有者変更の節目となます。

3.発生する時期

事業承継は、その時期は経営者が自由に選択設定できます。相続は、経営者の死去という突然に起こるもので、選択決定できるものではありません。

まとめ

以上の通り、不動産の重要性や、その複雑さや怖さがあるだけに、“最大の経営課題”である事業承継での不動産の取扱いは、十分慎重であるべきであり、かつ、注目すべき重要事項です。
次回以降は、具体的なトラブル事例を列挙してご説明します。

著者

山極 基隆やまぎわ もとお

著者

山極 基隆やまぎわ もとお

経歴
大阪大学/経済学部 卒業 兵庫県立大学大学院/経営研究科 修了
中小企業診断士、宅地建物取引士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
33年間、信託銀行で不動産仲介・企業再生/債権回収・事業承継業務を実践。
2019年独立起業して、山極経営支援コンサルティング株式会社/所長
活動
事業承継(親族内承継・従業員承継・第3者承継)の専門家として、公的機関や民間顧問先で実践している。独立後にM&Aの仲介・FAとして3件クロージング実績あり。新設の信託会社の元社外取締役。現在、買収企業の社外役員、公益財団法人神戸市産業振興財団でM&Aマッチングアドバイザーを務めている。