不動産コラム COLUMN
2025.1.28
事業承継での不動産トラブル事例・その2

今回は、『親族内承継』と『従業員承継』における不動産に関する具体的なトラブル事例を3つご紹介します。
事例1:まぁええやん!【分筆】・・・親子間承継の甘えと嘆き
- A社:瓦製造販売業及び建設業
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A社長は、息子3人それぞれに会社を承継するつもりでいました。
その理由は、3人の息子たち皆を社長にすることで、嫁や孫などに「お父さんは会社の社長よ!」と言われるようにしたいとのこと。
A社長の遺言書の作成依頼を受けました。
2つ会社を新たに作り、A社の事業を分けて各部門に特化した3つの会社にして、それぞれの自社株式を3人の息子へ相続することにしました。
しかし、A社長個人名義の事業用不動産は、税金の負担を考え、実際の使用している倉庫や工場・資材置き場等を事業ごとに分筆し、事業に必要な会社の後継者に遺言で相続させようとしました。
その分筆作業では、①全ての土地が道路に接するように、また、②生産ラインが効率的になるように、とお願いしました。
しかし、A社長から「ややこしいがな・・・『まあ、ええやん!』後は兄弟でうまくやって。このへんにしとこ!」として行った分筆となりました。
結果的には、作業工程の流れも一部悪くなり、接道の道幅の違いで評価額の違いが明確になりました。
そして、A社長の相続が発生し、遺言執行を行いましたが、弟婦人たちからは、兄弟間で財産価値の差について愚痴を受けることとなった遺言執行となりました。
A社長の遺言書では、「兄弟仲良く、3社が連携して皆が繫栄するようにしてほしい」でしたが、弟たちの会社は独自色を出そうとして事業がうまく行きませんでした。
結果、長男の会社が他の2社を統合し(土地は会社が賃貸)、事業が盛り返しました。
・・・長男の現社長からは、「結局、余計な税金や費用を払い、元に戻っただけ。でも、創業した親父が満足したなら、これでよかったかな。」とのことでした。
事例2:鬼嫁の嘆き【遺留分】・・・経営と相続分割の紛争
- B社:食品機械製造業
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B社の社長は、創業者の父から事業を承継しましたが、従業員も高齢の父の顔色をうかがい、専務の義兄も父の意向を気にしていました。
B社長の後継者候補には、同じ40歳の①長男と②甥がいました。
①長男は、大手メーカー(同業)勤務でありましたが、昨年の春、人手不足のためB社長が声を掛けて退職させ、B社に入社してきました。
②甥は、就職活動に失敗し、姉が父に懇願して入社しました。今年で20年目となると、今や部門のリーダーにまで成長していました。
B社長は、能力重視で後継者を選ぶつもりでいましたが、妻が猛烈に長男を推しており、大きな悩みの種でした。妻は、姉や妹とも折り合いが悪く、鬼嫁とまで陰口を叩かれていました。
ある時、高齢の父の相続が発生し、遺産整理業務の依頼を受けました。
相続財産は、自社株式と事業用不動産が資産の3/4程度を占めており、その他は自宅と預貯金・上場有価証券でした。
母に自宅と大半の預貯金を相続させると、兄弟姉妹で自社株式と事業用不動産の分割協議が難航しました。遺留分という法定相続人に対して保障される、最低限の遺産取得分が、姉にも妹にもあります。
妻は、後継者になるべき長男の為に、経営権の主導を取るようにとB社長に訴えます。
B社長は自社株式を確保し、事業用不動産は姉妹に渡して、家賃・地代を支払えばよいと判断しました。
しかし、その後の経営では家賃地代負担が重くのしかかります。役員報酬を取らずにいるB社長に対して、妻は、「姉や妹は家賃地代で潤っているのに、何のために経営しているか?こんな会社なら、長男に引継げない!」とB社長を問い詰めてきます。
・・・B社長からは、「妻の言い分を、聞きすぎたかな!まあ、給与をちゃんと払える会社にしよう!」とのことでした。
事例3:とりあえず共有にしときましょ!【共有】・・・従業員承継の難しさ
- C社:建築業
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創業者の父から事業を承継したC社長も60代後半となりました。
次の後継者は、娘たちは事業には全く興味を示さず、大手企業に就職しており、現在大学院生の甥っ子だけでした。
そこに役員候補の従業員Xが、「経営者保証が無いのであれば、後継者になっても良い」と言ってくれました。
父は、税理士からの勧めで、自社株式は徐々に集約してきており、父の保有分は遺言でC社長に相続することになっていました。
一方で、事業用不動産は、父個人名義の建物は全て会社名義としましたが、父個人名義の土地は、その持分を家族9人に生前贈与していました。
土地の生前贈与は、路線価で試算して500万円相当の持分を、B社長家族4名、次弟の家族4名、三弟も入れて総勢9名に、10数年に亘って行ってきていました。
その父の理由は「税金を考えると、生前贈与を家族皆に行い、『とりあえず共有』にした」と言っていたとのこと。
ある時、C社長より、父の相続後の今後の従業員承継のご相談を受けました。
これからの対策として、以下の内容を仰せでした。
①自社株式は、従業員後継者へ譲渡することor保有したままで、将来娘の一人に限定して遺言で相続させることで、経営と保有を分離させることがあります。
②事業用不動産は、現状の共有を解消するために、税金を払って会社へ譲渡することor借りたままにして、地代を払い続けることがあります。地代負担が重ければ、事業所を移転することもできます。
私の方からは、但し、事業拠点が移転する場合は、残った土地を、家族9名で「誰に・いくらで売るかor貸すか」の判断を一致させないといけないという難しい問題を抱えています、とお伝えしました。
まとめ
以上が事例のご紹介でした。いかがでしたでしょうか。
最後に、私からは、事業承継は相続と一体だと思います、ということをお伝えします。また、事業承継対策は、自社株式対策が中心であって、事業用不動産の扱いが不十分な事例が多いです。
是非、ご注意を!
次回は、事業承継における『第3者承継のM&A』での具体的な不動産トラブル事例をご紹介します。

著者
山極 基隆やまぎわ もとお
著者
山極 基隆やまぎわ もとお
- 経歴
- 大阪大学/経済学部 卒業 兵庫県立大学大学院/経営研究科 修了
- 中小企業診断士、宅地建物取引士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 33年間、信託銀行で不動産仲介・企業再生/債権回収・事業承継業務を実践。
- 2019年独立起業して、山極経営支援コンサルティング株式会社/所長
- 活動
- 事業承継(親族内承継・従業員承継・第3者承継)の専門家として、公的機関や民間顧問先で実践している。独立後にM&Aの仲介・FAとして3件クロージング実績あり。新設の信託会社の元社外取締役。現在、買収企業の社外役員、公益財団法人神戸市産業振興財団でM&Aマッチングアドバイザーを務めている。