不動産コラム COLUMN

2025.3.17

事業承継での不動産トラブル事例・その3

今回は『第3者承継』として、M&Aによる承継における不動産に関する具体的なトラブル事例を3つご紹介します。

事例4:畑がブラックボックス!【土地はどこにあるの?】

D社:果樹園・飲料製造業

※イメージ写真です

社歴の長い果物ジュース製造業のD社のM&Aでのお話です。

現社長は、父から20年前に相続した土地をD社へ賃貸し、D社はその土地で果物を育て、採取した果物をジュースにして製造販売しています。

当時、父から相続した土地は広く、山の中にある畑は、公図と住宅地図との関連付けが無い土地(本件飛び地)もあり、その所在する位置は「この辺!」として相続税を申告していたようです。
今般、会社株式の譲渡と併せて、個人所有の畑全てを会社(農地保有適格法人)に譲渡することで合意しました。

弁護士は、株式譲渡契約書と共に、不動産売買契約書を公簿取引(登記されている土地面積で売買取引を行う)として作成しました。
買い側として、「本件飛び地はどこに位置するのかが明示してほしい」とお願いしましたが、売主からは「飛び地は昔からブラックボックス!あの辺!」と言われ、飛び地の場所は曖昧のままで、不動産売買の話が進められようとしていました!
これで良いのでしょうか?

やはり、公簿取引とはいえ、本件飛び地は、現在のどの場所に位置するのかを、売主は明示する必要があります。
結果、法務局にある「古地図」を繋ぎ合わせて、現状の「住宅地図」と比較考量して特定していきました。具体的には、道路(里道)や泉(水路)等で「古地図」と現状の「住宅地図」で一致する場所を特定し起点としました。その起点から当該地への連続性・関連性を推定していき、本件飛び地の場所を特定し、無事、不動産の売買契約も締結でき決済も終えられました。

事例5:この建物は誰のもの?【建物所有者の特定は?】

E社:鋼材加工業

※イメージ写真です

地方にある鉄工業のE社のM&Aでのお話です。

昔の沼地を埋め立てて、現在の工場を建築しました。敷地内の奥の本体工場は建物登記をしていますが、手前の増築した工場は建物登記をしていませんでした。
借入もなく抵当権設定の必要性も無く、未登記建物であることに売主も意識はありませんでした。

今般、株式譲渡契約を締結するにあたり、M&A仲介会社から提供された不動産保有データを基に、不動産登記簿を調べた弁護士が作成した契約書案には、未登記建物の記載がありませんでした。

結果は、売主が未登記建物記載漏れに気づき、未登記建物の表示を、固定資産税の納税通知書に付随している課税明細書をもとに特定して、保有不動産リストに記載を致しました。

事例6:M&Aのデューデリジェンスの罠?【不動産のデューデリはだれがするの?】

F社:ホテル業

ある都市にある、築40年が経過しているリノベーションされたホテル業のE社のM&Aでのお話です。

本来、不動産の売買の場合であれば、土地に関する書類として、謄本・測量図・境界確認書等と共に、建物に関する書類として、謄本・建物図面・テナント明細・賃貸借契約書等が必要となります。
築年数が古い不動産では、過去の建物修繕を行った修繕履歴を確認できる書類と、今後の長期修繕計画の確認が必要となります。

今回の株式譲渡契約のためのデューデリジェンス(買収する側が売り手側の企業について詳細に調査を行うこと)では、弁護士と公認会計士と社会保険労務士により、法務・財務・税務・人事労務のデューデリジェンスを行いましたが、不動産のデューデリジェンスは行っていませんでした。

ホテル事業は設備産業であり、買収後でも、ホテルが正常に可動できる設備が整備されていることが必須です。そのためには、修繕履歴と今後の修繕計画とその投資費用の見積もりが適切に行われていることの確認が必要です。

結果、本件は、その後に1級建築士と宅地建物取引士により、不動産の設備に関するデューデリジェンスを追加して行い確認を無事行いました。

まとめ

以上、「事業承継での不動産とトラブル事例」をお届けしました。
円滑な事業の承継実現のためには、事前の周到な計画的な準備と、きめ細やかな段取りの良い対応が必要です。そのためには、どんな場合に、どんなトラブルが起こる可能性があるのかの予知するための知識が必要です。関心のある方は、不動産会社などに相談することをお勧めします。

以上で本コラムを終了させて頂きます。
本コラムが皆様にとって様々なトラブルを予知するための知識の一助になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

著者

山極 基隆やまぎわ もとお

著者

山極 基隆やまぎわ もとお

経歴
大阪大学/経済学部 卒業 兵庫県立大学大学院/経営研究科 修了
中小企業診断士、宅地建物取引士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
33年間、信託銀行で不動産仲介・企業再生/債権回収・事業承継業務を実践。
2019年独立起業して、山極経営支援コンサルティング株式会社/所長
活動
事業承継(親族内承継・従業員承継・第3者承継)の専門家として、公的機関や民間顧問先で実践している。独立後にM&Aの仲介・FAとして3件クロージング実績あり。新設の信託会社の元社外取締役。現在、買収企業の社外役員、公益財団法人神戸市産業振興財団でM&Aマッチングアドバイザーを務めている。